【DX Front Line】おくやみコーナーを開設
今回のDX Front Lineは、12月に開始したおくやみコーナーについて取り上げます。
市長が令和5年6月の行政報告で「窓口における受付・発券システムの導入」「おくやみ窓口の創出」「書かない窓口」などを例に、各課間の連携での意思疎通や調整をスピード感をもって取り組み、皆さんの貴重な時間を1分1秒でも短縮することに取り組むことを報告しました。
今回の記事で取り上げるのがそのうちの一つのおくやみコーナーというわけです。
※この記事では亡くなった方を故人、お手続きされる方をご遺族として書いていきます。
おくやみコーナーとは
「寄り添ってくれてありがとう」
これは、おくやみコーナーを利用されたご遺族の人から実際にいただいた言葉です。
おくやみコーナーは、ご遺族の手続きを支援するためのワンストップ窓口として、令和5年12月に開設しました。
ご家族が亡くなった時、心細さや不安に置かれながらも、いろいろな手続きをしなくてはいけないこともあり、様々な感情に押しつぶされそうになると思います。そんな時に、行政手続きにはなるべく時間を使いたくないでしょうし、私たちも時間がかかることを望んではいません。
そこで、市役所での手続きがなるべく早く終わることができるように開設したのがおくやみコーナーです。
おくやみコーナーでは、故人について必要であろう手続きをご遺族に伝え、その場でできる手続きはほかの窓口に移動せずにワンストップで行います。
また、その場でできない手続きは、「〇〇の手続きが残っています」ということや、「ほかの〇〇の機関で、××の手続きが必要です」ということも伝えています。
おくやみコーナーを利用するには
おくやみコーナーは基本的には予約制の窓口です。
事前に市役所が準備をしておくことで、書類の準備や来ていただいた時に担当者がいないなど、ご遺族をお待たせする時間を最小化することを目指しているので、予約制なのです。
死亡届を提出していただいた後、オンラインの予約カレンダーから3開庁日以降の日付を選んでいただき、来庁する時間を選んだり、必要な項目を入力していただきます。
予約が完了したら、予約した時間に市民課の窓口に来て下さい。もちろん予約の手続きはオンラインだけでなく、電話でも受け付けています。
この1ヶ月間で、窓口職員の運用と事前準備によって、予約していなくても、ほとんどの情報を処理できるまでになりました。
しかし、担当職員が不在だったり、他の課とのスムーズな連携を考えると、予約することをお勧めします。
部署をまたいだ連携の道のり
ここからはおくやみコーナー開始までの取り組みを「DX Front Line」の視点でまとめていきます。
このおくやみコーナーを開設することが決まってから開始するまでには、およそ半年間のBPR(業務の手順の再構築、業務改革)を行いました。
裾野市には窓口運営をよくするために様々な窓口の職員が集まり、業務の連携を図るための「窓口事務等検討会」という組織があります。
ここには市民課、国保年金課、税務課などの主に窓口業務に取り組む部署に加えてDXの推進に取り組むデジタル部も参加しています。
おくやみコーナーの開設に向けては市民課をリーダーとして窓口業務を行う部署の職員が自発的に取り組みました。
「おくやみでつらい市民の皆さんを待たせたくない」、「何度も同じことを書くのは無駄だ」など、様々な議論をして、どんな窓口が理想なのかを話し合いました。
先進的に取り組む自治体の事例などを参考にしたり、実際に職員が手続きを体験する調査を行ったりしながら、おくやみコーナーのあり方を話し合いました。
どの職員も主体的に、「ご遺族の手間を最小限にしたい」という視点で取り組んでいたのが印象的です。
その結果、おくやみコーナーの運営のためには、「短期間で各窓口の連携が必要」であり、これまでのメールやエクセルファイルの共有だけでは、時間がかかりすぎるということがわかりました。
そこで、連携のためにどんなシステムが必要なのか、という視点でICT化(デジタルツールの活用)を検討しました。
おくやみコーナーをなるべく早くに開設することを目標に、システム構築はキントーンというクラウドサービスを選定しました。
どの部署でも確認できることが必要で、セキュリティの問題など数々の技術的なハードルはありましたが、情報システム課と連携して突破しました。
仕組みの構築は事業者には頼らず、職員がゼロから作り上げました。
職員がシステムを作り込んでしまうと、人事異動があると更新ができず陳腐化してしまうという現象が起きてしまうことがあるのですが、このクラウドサービスはプログラムを書いたりすることは無く、パーツやデータの連携を組み合わせていくと完成するので、作った物を他の職員が修正することも簡単にできます。
一旦組み上げた仕組みをおくやみコーナー開始の1ヶ月前からすべてのおくやみコーナーに関わる担当者に触れて貰い、修正を重ねました。
システムの修正は、利用している職員の声を参考に、今も毎週のように行っています。
職員の声で良くなっていくシステムというのは、実はこれまでほとんどありませんでした。
システムの改修ができることが優秀なのでは無く、現時点ではサービスそのものを標準化している最中なので、修正できることはとても重要な事項になっています。
サービスの改善はシステムだけでなく、運用面でも行っています。
「各窓口を回ってもらわずに、なるべく一つのコーナーで完結しよう」
「様式に故人のお名前や住所、生年月日はなるべく印刷した用紙を準備しよう」
「死亡届が出てから次の日には庁内連携による情報確認を完了させよう」…
前向きな取り組み姿勢は、職員がお互いに刺激しあっているようでした。
デジタルツールを使うのは人間
ここまで読んでいただいたような流れを経て、チーム全体が本気でサービスデザインを進めた結果、市民の方からいただけた声はとても暖かくしみてきます。
「寄り添ってくれてありがとう」
DXはデジタル・トランスフォーメーションの頭文字をとったものですが、デジタルというとどこか機械的で冷たいイメージがあると思います。
今回の取り組みは、デジタルの活用について、心に寄り添うことで初めてデジタルを人間が使う価値があるのだと感じる取り組みの一つだと実感しています。
ツールを導入すれば何でも解決するのがDXではない!ということを再確認できました。
今後は、「まだまだ書くことが多い」といったお声の解消や、「そもそも窓口に来なくても良い」ことを目指して継続的に良いサービスを目指していきたいと思っています。
終わりに
私はすこしひねくれているので、ここまで読んでみて「なんか、耳障りの良いことを言っているけど、本当に成果が出ていますか?」と突っ込みたくなります。
ということで、おくやみコーナーの予約状況を数値で示して、今後の目標を掲げてみましょう。
令和5年12月25日現在、おくやみコーナーの開始後の予約率は電話とオンライン予約を合わせて44%、予約なしで手続き完了した件数は14%、まだ手続きに見えていない方が42%となっています。
今後、まだお手続きを完了されていない方が迷わずおくやみコーナーを利用していただけるように、サービスを周知していくことも大事な仕事ということがわかります。
この記事がその役に立てれば幸いです。
この記事を書いた人
■中原義人
10年経験した情報システムの仕事の経験を武器に業務改革にまい進中です。昔は若手職員から怖がられていましたが、今はすっかり丸くなりました。
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