【公民連携】データを利用したまちづくり(前編)
今回の公民連携は、データ利活用による裾野市のまちづくりについてです。
令和5年2月7日、市に潜在している課題をデータ化して分析し、得られたデータを根拠に課題解決を促進するために、トヨタ自動車(株)未来創生センター、矢崎総業(株)、(株)三ツ輪交通自動車と「データ利活用によるまちづくりに関する連携協定」を締結しました。
連携の経緯
この連携の経緯について、当時みらい政策課でデータ利活用によるまちづくりを担当していた生活環境課の長田課長代理に話を聞きました。
――連携のきっかけはどのようなものでしたか。
当時市では地域の課題を解決するための取り組みを模索中で、中でも公共交通とカーボンニュートラル宣言後の取り組みについて検討しているところでした。
そのような時に、トヨタ自動車(株)未来創生センターから、地域の課題解決の取り組みについてお話をいただきました。
市としても「ぜひ!」というタイミングでしたので、こちらからも連携のお願いをさせていただきました。
同時に、当市の危機管理課とトヨタ自動車(株)未来創生センターとの間では、すでに防災に関する連携の取り組みが行われていましたので、「公共交通」「カーボンニュートラル」「防災減災」の3つの事業で公民連携で取り組むことになりました。
現在この3つの事業については、公民連携によるデータ分析と課題解決策の模索がさらに加速して行われています。
公共交通の連携
3つの公民連携の1つ、公共交通の連携について都市計画課の前田主席主査とトヨタ自動車(株)未来創生センターの北浜さんに話を聞きました。
――前田さんの担当業務を教えてください。
令和5年度から都市計画課に配属になり、現在は公共交通だけでなく都市計画法の許認可、土地利用事業などについても担当しています。
――データを利活用した公共交通の連携について、どのようなことに取り組んでいますか。
バスやタクシーなどの公共交通による市民の移動実態の調査やデータ分析などを行うことで裾野市の公共交通による移動の実態を明らかにして、課題の整理と公共交通の利便性につながる施策を検討しています。
市内循環バスの利用実態の推定や市内路線バスやタクシーの移動データの分析、利便性の評価などのほか、実際に市内循環バスに乗り、利用者から生の声を聞きました。
他には、市内循環線バスを利用する人たちを対象に利用者対話集会を開催しました。
利用者目線での市内循環線の最適化を目指した意見交換を行い、利用者にとって利便性の高い再編案を検討しました。
――民間事業者との連携は、どのような効果がありますか。
市長戦略には、「公共交通の不便さ解消」が掲げられています。
しかし、行政だけでは、公共交通の不便さ解消の実現に向けた取り組みを進められなかったと思っています。
公共交通を実際に利用する人たちの声を民間事業者と一緒に丁寧に聞くことで、アンケートなどだけでは分からない意見や課題を捉え、民間事業者ならではの見解やノウハウを取り入れながら公共交通の在り方を検討できるようになったと感じています。
データの収集はもちろん、実際に利用している人たちの生の声を聞いて課題を見つけて改善し、不便さの解消につながる公共交通の実現に向けた取り組みを進めたいと思います。
――トヨタ自動車(株)未来創生センターの北浜さんにお話を伺います。北浜さんはどんな業務をしていますか。
トヨタ自動車(株)東富士研究所にある未来創生センターは、愛知県に二ヶ所、静岡、東京一ヶ所ずつ計4つの拠点があり、主にロボティクス、革新インフラ、バイオヒューマン、数理データサイエンスなど、将来のトヨタ自動車が必要とするであろう技術を先回りして研究している部署です。
私はそこで、「社会科学」の研究に取り組んでいます。
人のウェルビーイング(幸福)とは何か、それをどう生み出すか、そのために科学や技術を社会とどのようにつなげればよいか、という問いに対する答えを探っています。
東富士研究所の地元である裾野市に貢献できることとして、従来のやり方ではなかなか解決が難しい地域課題に、社会科学研究というアプローチで挑むことが我々のできると貢献だと考えました。
――裾野市では公共交通の不便さ解消という課題を抱えています。バスについてどのようにデータを活用、分析されたのか教えてください。
都市計画課の皆さんから、利用者の減少を背景にバス路線が縮小したり廃止になったりしている中、限られた財政状況で誰もが移動しやすいバスにしていきたいという話を伺いました。
バスの利用者の多くは高齢者になりますが、車を持たれていなかったり免許を返納した人たちになります。
そのような人たちは、タクシーを使って移動されることもあります。
バスをより使いやすいものにするためには、市内の高齢者の人たちが普段どのような移動をされているのか、バスに限らずタクシーまで含めて、まずは移動実態をデータで正確には把握することが必要だと考えました。
とは言っても、そのようなデータが使いやすいように管理されていたわけではなく、庁内やバス・タクシー事業者など、いろいろなところにデータは分散していて、それらをかき集めることから始めました。
さらに紙の形で存在している情報も多く、それらをデジタルデータに変換するなど、データを使える状態にすることに当初、大変苦労しました。
バスの利用データを見ていくと、利用者が多いバス停や、ほとんど使われていないバス停があることが分かりました。
ただ、利用者の一人ひとりが、どのバス停で乗ってどのバス停で降りたのかまではデータからは正確には分かりませんでした。
そこで3か月間、実際にバスに乗り込み、利用者の乗降バス停の記録も行いました。
その際、車内で利用者と会話もさせていただき、現状のバスに対する不満や改善要望の声も伺うことができました。
この時、データを机上で分析するだけでなく、実際の利用者の生声を聞くことの重要性を強く感じました。
データ分析や現地での調査の結果、現在のバスの課題や改善の方向性が見えてきました。
ただし、その考え方で本当にいいのか、より具体化するためにどうしたらいいのか、迷いや不安もありました。
そこで、その迷いや不安を正直に利用者にぶつけてみて、一緒に考えてもらおうと、バスの利用者と対話の場を設けることにしました。
そこでは、率直な意見をたくさんいただき、ルートや時刻表に関しての具体的な提案もいただきました。
結果的に、利用者と一緒に、より使いやすいバスの再編案を作り上げることができたと思います。
――この取り組みの目指すゴールのイメージを教えてください
4月から、利用者と作り上げたバス再編案のルートと時刻表で試験運行を開始します。
その利用状況をデータでおさえ、さらに利用者と改めて対話をする場も設ける予定です。
そして、利用しやすいバスに改善していき、10月からの本格運行につなげていきたいと考えています。
その先には、今回取り組んだバスだけでなくタクシーまで含めた公共交通全体で移動環境を考え、より移動しやすい環境を目指していきたいと思います。
さらに、お出かけしたくなるコトづくりについても考えていきたいです。
バスでお出かけをして生活が豊かになる。
そんな一人ひとりの幸せを大きくするために今よりも使いやすいバスの姿を考える。
そのためにデータ分析技術を活用する。
我々がそもそも取り組んでいる社会科学研究の課題である、「人のウェルビーイング(幸せ)のために科学と技術をどのように社会とつなげればいいか」という問いに対して、バスを題材に具体的な取り組みができていると感じています。
裾野市の皆さんやバス利用者の皆さんを始め、これまでご協力いただいた皆さんに大変感謝しております。
――ありがとうございました。
公共交通の課題は、どの市町にとっても重要な課題の一つです。
市の職員だけでは分析できないところ、民間企業だけではわからない仕組みなど、お互いが相互に分担したり意見を交わしたりすることで見えてくるものが明確になる印象を持ちました。
グラフや図を利用することで視覚的にも事業を見ること、理解すること、その課題を捉えることができるように思います。
実際にバスを利用している人の声を聞くことはとても大事なことですし、会って話すことで見えてくるもの、発見することは何にも代えがたいことです。
今後もデータを利活用した分析や課題解決は継続します。
公共交通の市民満足度向上に向けて期待が膨らみます。
この記事を書いた人
■安倍健
富士の麓裾野市で地元小中学生と陸上長距離に励む自称公務員ランナーです。
フルマラソンで2時間35分を切って福岡国際マラソンに出場することが生涯の目標です。